「食事も気をつけているし、運動もしているのに、なかなか体重が落ちない」。そんなご相談を受けたとき、私たちが必ず伺うのが睡眠のことです。
実は、睡眠不足や眠りの浅さは、食欲や体の回復に関わり、ダイエットのじゃまになることがわかってきています。この記事では、睡眠とダイエットの関係と、今日からできる眠りの整え方をまとめました。
体重がなかなか落ちないときは、まず睡眠を見直してみてください。がんばりすぎるより、しっかり眠るほうが近道になることもあります。
話題の「オレキシン」研究からわかる、眠りと食欲の深い関係
2026年9月、筑波大学の柳沢正史教授が、アメリカのラスカー賞(基礎医学研究賞)を受賞しました。「ノーベル賞の登竜門」とも呼ばれる賞です。評価されたのは、脳の中で目覚めた状態を保つ物質「オレキシン」の発見と、オレキシンが不足すると日中に強い眠気が出るナルコレプシーという病気が起こることを明らかにした研究です。
このオレキシン、実は最初は「おなかをすかせる物質」として見つかりました。名前も、ギリシャ語で「食欲」を意味する言葉にちなんでいます。
ここで、身近な例を思い浮かべてみてください。
- おなかがペコペコだと、なかなか寝つけない
- お昼ごはんを食べたあと、急に眠くなる
こんな経験はありませんか? 食後の眠気には体内時計のリズムなどいくつかの理由がありますが、そのひとつにオレキシンが関わっていると考えられています。おなかがすくとオレキシンが働いて目が冴え、食事で血糖値が上がるとオレキシンの働きが落ち着いて眠くなりやすくなるのです。体はもともと、「食べものを探すときは起きていて、満たされたら休む」ようにできています。
つまり脳の中では、「眠る・起きる」と「食べる」が同じスイッチでつながっているのです。オレキシンがうまく働かない人や動物では、たくさん食べているわけではないのに太りやすい傾向があることも報告されています。
眠りと食欲は、脳の中で同じスイッチにつながっています。睡眠を整えることは、食欲を整えることにもつながるんです。
では、毎日の睡眠不足は、具体的にどのようにダイエットに影響するのでしょうか。
睡眠不足だと、なぜ太りやすくなるの?
1. 食欲をコントロールするホルモンのバランスが乱れる
私たちの食欲は、「おなかがすいた」と感じさせるホルモン(グレリン)と、「もう満足」と感じさせるホルモン(レプチン)で調整されています。睡眠時間が短くなると、食欲を高めるグレリンが増え、満足感をもたらすレプチンが減ることが、これまでの研究で報告されています。
つまり、寝不足の日は「いつもより食べたくなる」「食べても満足しにくい」状態になりやすいのです。
2. 甘いものや脂っこいものが欲しくなる
寝不足のときは、判断や我慢をつかさどる脳の働きが落ち、高カロリーな食べ物に手が伸びやすくなることもわかっています。夜ふかしをすると夜食の機会が増える、というのも大きな理由です。
3. 疲れが抜けず、体を動かす量が減る
眠りが浅いと、日中に疲れやだるさが残ります。すると、歩く・階段を使うといった日常の活動量が自然と減り、消費するエネルギーも少なくなります。
4. 体の回復が追いつかない
深い眠りのあいだには、体の修復や代謝に関わる成長ホルモンが多く分泌されます。運動をがんばっていても、睡眠が足りないと体の回復が追いつかず、思うような変化につながりにくくなります。
食べすぎる・動かなくなる・体が回復しない。寝不足は、この3つが同時に起こりやすい状態です。
どのくらい眠ればいいの?
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上の睡眠を目安にすることがすすめられています。必要な睡眠時間には個人差がありますが、「朝すっきり起きられるか」「日中に強い眠気がないか」もチェックしてみてください。
時間だけでなく、「寝つきがいいか」「夜中に何度も目が覚めないか」といった眠りの質も大切です。
「夜10時〜2時に寝ないと太る」は本当?
「夜10時から深夜2時は睡眠のゴールデンタイム」という話を聞いたことがある方も多いと思います。ただ、時刻そのものより大切なのは、寝入ってから最初に訪れる深い眠りです。成長ホルモンは、寝始めの深い眠りのときに多く分泌されるとされています。
時刻にこだわりすぎるより、毎日なるべく同じ時刻に寝て起きること、そして寝始めの眠りを深くすることを意識しましょう。このあと紹介する習慣が役立ちます。
今日からできる、眠りの質を上げる6つの習慣
1. 朝起きたら、まず日の光を浴びる
朝の光を浴びると体内時計がリセットされ、夜に自然と眠くなるリズムが整います。カーテンを開ける、ベランダに出るだけでも十分です。
2. 入浴は寝る1〜2時間前に
ぬるめのお湯(38〜40℃くらい)に10〜15分ほどつかると、体が温まります。その後、体温がゆっくり下がっていくタイミングで眠気が訪れやすくなります。
3. 夕方以降のカフェインを控える
コーヒーや緑茶、エナジードリンクに含まれるカフェインは、数時間にわたって目を覚ます働きが続きます。午後の遅い時間からは控えめにしましょう。
4. 寝る直前の食事とお酒を避ける
寝る直前に食べると、胃腸が働いたままになり眠りが浅くなりがちです。お酒は寝つきをよくするように感じても、夜中に目が覚めやすくなり、眠りの質を下げてしまいます。
5. 寝る前は自分なりの「入眠儀式」を
以前は、スマホの画面の光(ブルーライト)が眠りを妨げるとよく言われてきました。ただ最近では、光よりも「何を見ているか」のほうが大切だと考えられています。次々に流れてくる短い動画やSNSは、続きが気になって脳がワクワクした状態になり、眠気がどこかへいってしまいます。
オレキシンの研究でラスカー賞を受賞した柳沢正史教授は、自分が眠くなるための「入眠儀式」を持つことをすすめています。例として、癒される動物の動画を見る、音楽を聴くといったことを挙げ、ご自身は「つまらない論文を読んでいるとすぐに眠れる」と話しています(参考文献2)。
少し退屈なくらいの本を読んでいたら、いつの間にかうとうとしていた…そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。寝る前は、ドキドキ・ワクワクしない、自分がほっとできることを選ぶのがコツです。
- 部屋の照明を落として、暖かみのある色の明かりに切り替える
- ゆったりした音楽を聴く
- 読み慣れた本をパラパラめくる
- このあと紹介する、寝る前のストレッチをする
毎晩同じ流れをくり返すことで、「これをしたら眠る時間」という合図になっていきます。また、眠れないまま布団の中で悶々と過ごすのは避けたほうがよいとされています。どうしても眠れないときは、いったん布団から出て、入眠儀式をやり直してみましょう。
6. 日中に体を動かし、寝る前は軽いストレッチを
日中にウォーキングなどで体を動かすと、夜の寝つきがよくなりやすくなります。一方、寝る直前の激しい運動は体を興奮させてしまうので、寝る前はゆったりしたストレッチにとどめましょう。
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫です。まずは「朝の光」と「寝る前のだらだら動画をやめる」の2つから始めてみましょう。
理学療法士がすすめる、寝る前の簡単ストレッチ
体がこわばっていると、寝つきが悪くなったり、夜中に寝返りがしにくくなったりします。布団の上でできる、やさしいストレッチを2つご紹介します。
ひざ倒し(腰・お尻まわり)
あおむけで両ひざを立て、ひざをそろえたまま左右にゆっくり倒します。呼吸を止めずに、左右5回ずつ行いましょう。
胸ひらき呼吸(肩・背中まわり)
あおむけで両手を体の横に置き、手のひらを上に向けます。胸を軽くひらくように意識しながら、鼻から4秒吸って、口から6〜8秒かけてゆっくり吐きます。5回ほどくり返しましょう。
呼吸はゆっくり、吐くほうを長めにするのがコツです。体の力が抜けて、寝つきやすくなります。
痛みが出る場合は無理をせず、できる範囲で行ってください。
こんな場合は医療機関へ
しっかり時間をとっているのに日中の眠気が強い、いびきが大きい・呼吸が止まっていると言われた、眠れない状態が長く続いている、という場合は、睡眠の病気が隠れていることもあります。早めに医療機関に相談してください。
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まとめ
睡眠不足は、食欲のホルモンを乱し、高カロリーなものを欲しくさせ、日中の活動量や体の回復にも影響します。食事や運動と同じくらい、睡眠もダイエットの大切な土台です。まずは「朝の光」「寝る1〜2時間前の入浴」「寝る前のだらだら動画をやめる」の3つから始めてみてください。
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024年)
- 厚生労働省 広報誌『厚生労働』2025年3月号「睡眠に関するインタビュー(柳沢正史氏)」
- 日本医事新報社「ラスカー賞に筑波大の柳沢教授、「オレキシン発見」を評価」(2026年)
- Sakurai T, et al. Orexins and orexin receptors: a family of hypothalamic neuropeptides and G protein-coupled receptors that regulate feeding behavior. Cell. 1998;92(4):573-585.
- Yamanaka A, et al. Hypothalamic orexin neurons regulate arousal according to energy balance in mice. Neuron. 2003;38(5):701-713.
- Spiegel K, et al. Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Ann Intern Med. 2004;141(11):846-850.
- Taheri S, et al. Short sleep duration is associated with reduced leptin, elevated ghrelin, and increased body mass index. PLoS Med. 2004;1(3):e62.
- Greer SM, et al. The impact of sleep deprivation on food desire in the human brain. Nat Commun. 2013;4:2259.